胃切開
胃切開を行う要因として異物を飲み込んでしまい、内視鏡では摘出できない場合や、胃腫瘍などが挙げられます。
鳥の骨を大量に食べてしまった犬のレントゲン画像
胃内異物
胃内異物は犬、特に若齢犬でみられることが多くみられます。
胃内異物が腸管を通過できそうなほど小さく、粘膜損傷の可能性が低い場合は経過観察や催吐処置を試みることができますが、それ以外は状況により催吐処置、麻酔下での内視鏡になります。これらの処置でも難しい場合、外科的摘出(胃切開)が適応となります。
また、紐状異物は猫に多く見られます。遊んでいるうちに飲み込んでしまい、舌下や胃の下にある門に一端が絡みついていることが多いです。襞状(ひだじょう)の形になるためこの場合は胃切開の手術適応外になり、胃および腸管切開術が適応となります。
誤飲してしまった時の症状
胃内異物は犬、特に若齢犬でみられることが多くみられます。
- ・嘔吐・下痢
- ・食欲不振
- ・よだれが多く出る
- ・落ち着きがなくなる
- ・異常な呼吸や咳
- ・震え など
胃腫瘍
胃における腫瘍の発生は稀ですが、腺腫(乳頭腫とともに良性の上皮性腫瘍の群に属する腫瘍で、胃、腸管、乳腺、卵巣、甲状腺などにしばしば発生します)
腺癌
リンパ腫(悪性腫)、平滑筋腫・平滑筋肉腫(平滑筋という筋肉の細胞が腫瘍化したものです。 良性のものを平滑筋腫、悪性のものを平滑筋肉腫といいます) などが見られます。
異物摘出時の胃切開術
1.開腹する部分の毛を刈り、消毒していきます。
2.開腹し、開創器で固定し、胃を二本の糸で把持します。
3.胃の内容物が漏出しないよう切開していきます。
4.胃にある異物を除去していきます。
5.胃切開の後は必要に応じて腹腔内洗浄を行います。生理食塩水を腹部に入れて、吸引する処置を複数回行います。体温が下がらないように温かい生理食塩水を使用します。
6.切開した部分を縫合していきます。
術後の管理
腹部を縫合しているため、術後はエリザベスカラーを装着します。1~2日程度絶食をし、胃を休ませます。その後様子を見て少しずつ食事の量を増やしていきます。
抜糸は退院してから一週間後に行います。
胃捻転
胃拡張捻転症候群とは
胃が拡張し、ねじれ(捻転)を起こすことで発生します。胃や周囲の血流が遮断されることから、急激にショック状態に陥るため、著しく緊急性の高い病気です。発生後数時間で死に至ることも多くあります。
原因
明らかな原因は解明されていませんが、水や食べ物を摂取した直後の胃の異常運動、大量の空気嚥下などが考えられます。
発生しやすい犬種
- 特にグレート・デーン、ボクサー、ジャーマン・シェパード、セント・バーナード、ドーベルマン、秋田犬、チャウチャウなどの胸腔の深い大型・超大型
食事に関係するリスク
・水や食べ物を摂取した直後の運動
・運動の直前や直後の水のがぶ飲み
・一日一回の食事
などが考えられます。
症状
<典型的な初期症状>
・胃が拡張するため、胸部・腹部が大きく膨んでくる
・元気消失
・落ちつきがなくなる
・嘔吐や嘔吐物を伴わない吐き気
・背中を丸めてお腹を痛そうにしている など
その後、呼吸困難、目に見える部分の粘膜が白く退色する、脈圧が低下する、などのショック症状を起こします。そのまま治療をしないで放置しておくと数時間で死亡する場合がありますので、早急の治療が必要です。
検査・診断
触診及び打診…腹部の過度の膨張と打診によりガスの貯留を確認します。
腹部のレントゲン…過度の胃内ガス貯留及び幽門部(胃の出口の部分)の変位を確認します。
治療
・胃の空気を抜き、減圧処置を行うことで、捻転を解除する処置が重要です。口から胃にチューブを挿入したり、皮膚の上から太めの注射針を胃内に刺すことで、内部のガスを排出し、減圧します。
・状態を安定させるために十分量の輸液療法を実施します。
・開腹手術により捻転の整復及び再発防止のため、胃腹壁固定を行います
・必要に応じて壊死部の切除や脾摘を行います。
・不整脈が認められることが多いので、必要に応じて治療していきます。
術後
当院で3日から5日ほど様子を見させて頂きます。
退院後も、エリザベスカラーをしっかりつけていただき傷口を舐めないようにしてあげましょう。お薬を飲み終わったころに抜糸に来ていただき様子を見させて頂きます。
予防
1回の食事で沢山の量を与えすぎたり、食後すぐに運動をしたりしないようにしましょう。特に、暑い時期は、胃内で食物が発酵するスピードが早いため、ガスの発生が起きやすく、注意が必要です。
また、食事の回数を1回だけでなく、2回以上に分けることなども予防になります。
胃拡張・胃捻転症候群の原因は明確になっていないため、完全に予防するのは難しいのですが、発生防止につながると考えられます。
小腸切除、切開
小腸切除・切開を行う要因
主な要因として異物・腸重積・腫瘍などがあげられます。場合によっては腸の閉塞や壊死を引き起こす可能性があります。
おもちゃを飲み込んだ犬のレントゲン画像と開腹した腸
腸内異物
特に若齢の子に多く見られます。胃を通過し、大腸や小腸で閉塞を起こしてしまいます。
閉塞の原因としておもちゃ・石・果物の種・ビニール袋などがあげられます。
猫では紐を遊んでいるうちに飲み込んでしまい起こることもあります。
処置としてはバリウム造影検査を行い腸内がしっかり流れているか数分後、数時間後にレントゲンを撮り確認します。そして、麻酔下での内視鏡検査で異物を摘出するか、内視鏡検査が難しい場合は外科的に腸を切開して摘出する事になります。
腸重積
腸の一部が腸管内に入り込んで抜けなくなる状態の事。発生する原因として異物、感染症(ウイルス、寄生虫)、腫瘤などがあげられます。
そのままにしてしまうと血行障害を起こした腸管の炎症・壊死が起こり、腹膜炎へと進行するとショック状態になり死亡する可能性があります。治療は開腹し重積部分の整復か外科的に壊死している部分の切除を行います。
症状
腸閉塞と腸重積は似ていることがあります。
・食欲不振
・元気がない
・嘔吐、下痢
・腹痛 など
腫瘍
特に高齢の犬で見られます。腸の腫瘍にはいくつかあり、腺癌、リンパ腫、平滑筋の腫瘍、GIST(消化管間質腫瘍)などがあります。腸管の悪性腫瘍は腺癌とリンパ腫が多いと言われています。腫瘍が塊状になると、腸閉塞になることもあるので注意が必要です。治療は外科的に腫瘍の切除を行います。
予防
【異物の予防】
・おもちゃは飲み込めるサイズのものは与えないようにすること
・お留守番をさせるときは届く範囲にものを置かないようにする
・散歩中は地面に落ちているものを飲み込んでしまうこともあるため、拾い食いをさせないようにする など
【腸重積の予防】
・ウイルス疾患の予防の為のワクチン接種、寄生虫の駆虫 など
腫瘍の予防に関しては、早期発見・早期治療が大切です。異常が見られる場合は早めに動物病院に受診しましょう。
術後の管理
手術後は、2日程絶食をし、3日から6日程当院で様子を見させて頂きます。
また、術後から退院後も必ずエリザベスカラーをつけていただき傷口を舐めないようにして頂きます。そして、退院から1週間後に抜糸を行います。
まとめ
腸切開、切除を行う要因として3つあげましたがどれもそのままにしておくと危険な状態になります。特に誤食は犬も猫も多くみられます。日頃から予防や対策をしっかり行いましょう。
胃瘻チューブ設置
胃瘻チューブ設置理由
・大きな病気をし、食欲が落ちてきている
・病気で食べたものを吐いてしまう(巨大食道症など)
カテーテルの種類
基本的にカテーテル本体と胃壁・腹壁を挟んで内部バンパー(ストッパー)及び外部バンパー(ストッパー)で構成されています。
バンパー型
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- 耐久性に優れており、抜けにくいという利点があります。しかし、バンパーによる皮膚や胃粘膜の圧迫や埋没などの危険性があります。
バルーン型
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- バルーン内に蒸留水を注入することで内部バンパーとなります。挿入時及び抜くときには、バルーン内の蒸留水は抜かれているため安全な操作が可能です。しかし、耐久性に乏しくバルーンの破裂や蒸留水の漏洩が起こる可能性がある為、1~2ヶ月で交換が必要です。
チューブ型
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- 動物病院ではほとんどがこのタイプです。栄養剤の投与は容易ですが、偶発的な抜去のリスクがあり、チューブ内での汚染も生じやすい。
ボタン型
- カテーテル部分が短く、注入口が腹壁に固定されるため、事故抜去のリスクがすくないです。しかし、シャフトの長さが規格によって決まっているため、厚みがない小型犬や猫では適用しにくくなっております。
当院では、バンパー型のチューブを使用しております。
設置方法
設置方法としては様々な手法がございますので、当院で取り扱っている方法をご紹介いたします。
【Pull法】
1.腹壁と胃壁が接している部分に腹壁側から針をさし、胃内にワイヤーを挿入します。
2.ワイヤーを内視鏡を用いて口腔外まで引っ張ります。
3.カテーテルを結び付けた後、腹壁側からワイヤーとカテーテルを引っ張ることにより、カテーテルを胃壁・腹壁に設置します。
カテーテル設置後の管理
瘻孔の管理
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- 瘻孔(体内と体外との間)が安定しても、ストッパーの締めすぎやカテーテルによる局所圧迫により皮膚トラブルが生じることがあるので注意が必要です。また、瘻孔から多少の胃液や栄養剤の漏洩が見られる場合、洗い流して清潔に保ちましょう。
カテーテルの管理
- カテーテルは長期にわたって使用していると栄養剤などが内腔に付着し微生物感染や閉塞の原因になります。カテーテルを出来るだけ清潔に保ち、長持ちさせるためには、栄養剤注入後に必ず微温水を流しましょう。
おもな合併症
・皮膚のトラブル
程度には差がありますが頻繁にみられる合併症です。原因はカテーテルの圧迫、ストッパーの締めすぎ、栄養剤や胃液もしくは浸出液の付着、瘻孔周囲の不衛生な管理などが関連していると考えられます。
事故抜去、カテーテルの破壊
人とは違い、動物は自ら栄養摂取に必要なものだという自覚がない為、カテーテルを掻いたり、擦ったり、噛みちぎったりすることがございます。